October 21, 2007
赤い影 - Don't Look Now (1973)
■忘れられない映画 その35□邦題:赤い影
□監督:ニコラス・ローグ
□出演:ジュリー・クリスティ、ドナルド・サザーランド
ニコラス・ローグが描くサスペンス・ホラー。水の都ベニスの陰欝で古風な美しい街の片隅で音もなく待ち伏せている赤い影。「赤い影」とは邦題で原題は「今見てはいけない」と言う意味だが、映像のあちこちには意識したかのように赤が使われ、人の心や世の中にある赤い狂気を象徴しているかのようでまるで違和感はない。
原題の “Don't Look Now.”はこのブログで使わせていただいています。とてもお気に入りの作品。
【ストーリー】
雨上がりの湿地で遊ぶ子供たち。男の子は自転車で駆け回り、赤いレインコートの女の子は人形を手にしながら、ボールを池に投げ入れる。青い水草がボールの動きを制限してボールは一箇所でくるくる回る。近くにはモダンな外観の立派な家が建ち、暖炉で温かい1階のリビングでは30代半ばの夫婦が思い思いにゆったりとした時を過ごしている。
妻ローラは暖炉の前で子供から質問されたことを百科事典で調べ、夫ジョンは近々自分が修復を手掛けることになっているベニスの教会内部の写真をプロジェクターに投影し熱心に一枚一枚見ている。その中の一枚に協会の祭壇に近いベンチに座る赤いフードの子供の後ろ姿が写っている。何か奇妙に思いルーペで拡大して見るジョン。タバコを吸おうとした拍子に、水の入ったグラスを溢してしまう。スライドは水に濡れ、慌てて状態を確認するが、赤いレインコートの部分から異様な赤いしみがにじみだし、そのしみはとたんに広がってしまう。

その瞬間ジョンは何かを感じ取ったかのように外に飛び出して行く。彼は何よりも娘の姿を探すがどこにも見えない。その時息子が激しく取り乱しながらジョンに向かって走ってくる。ただならぬ様子を感じ取ったジョンは、迷うことなくボールの浮かんだ冷たい池へと身を投じると、何度ももぐっては池の中をさらう。そしてついに、赤いレインコートに身を包んだ幼い娘の身体を池の底からすくいあげる。池から上げ人工呼吸を施すが、娘の小さな身体はぐったりと動かない。叫び声を上げながらたっぷり池の水を含んで重たくなった娘の身体を抱きしめながらよろよろと池から這い出そうとする。事態を知らずリビングから外に様子を見に出て来たローラはその姿に悲鳴を上げる。

それから数ヶ月が過ぎ、二人は息子を寄宿学校に預け、ジョンの仕事のためにベニスにいた。観光の季節を終えたベニスは郷愁を誘うような静けさで、遠くの音もよく聞こえるような感じだ。
馴染みのホテルに宿を取り、二人はレストランで食事をしようとしている。別のテーブルに座っている二人の婦人。ひとりは目が悪い様子で痩せており、もう一人は大柄だ。ジョンが窓を開けたことで、入り込んだ風で、婦人の一人の目にゴミが入った様子。二人は席をたつと化粧室に向かうが、ドアを間違えたり、おぼつかない。それを見ていたローラは、2人に手を貸すために席を立つと2人をトイレへ案内して付いて行くのだった。トイレでは目のゴミを取るのに往生している婦人に自ら申し出て、ゴミをとってやるローラ。礼を言う婦人とローラのやりとりを見えないながらも楽しげにうかがっていた婦人が、おもむろにローラに話す。「あなたはとても悲しんでいるけれど、そんな必要はないわ。娘さんはあなたとご主人の間に座って幸せそうだった」と。ローラはその言葉に動揺を隠せない。聞くと二人は姉妹で目の見えない妹は霊媒師だという。彼女の語る娘の姿はローラには疑いようもないほど詳細に一致しており、彼女は溺死した娘が幸せでいることに心癒されるのだった。気を取り直し一人ジョンのいる席に戻ると、彼女は突然めまいに襲われ、倒れこんでしまう。

その頃町では猟奇的な連続殺人事件が発生していた。
二人の運命は死んだ娘の影に導かれるように、少しずつ悲劇へと向かってゆくのだった。
観光シーズンではないひっそりとしたベニスこそ本当に訪れるべき名所なのかもしれない。しかしシーズンを過ぎた街の人々は決して外国人を歓迎していないようにも見える。否応なく孤独を感じるその空気が人の優しさをより温かくも思わせる。そんな中で愛する我が子の死を忘れることなど出来るだろうか。
霊媒師の姉妹に会ってから二人の運命は狂い始めたかのように見えるが、果たしてそうなのだろうか?運命はいつもそこにあり、決して変わることなどないのだろうか?二人の身に降り懸かった娘の事故やジョンの悲劇は運命だったのだろうか?この2人はベニスに来てはいけなかったのだろうか?

この作品の最大の魅力はビジュアルや雰囲気なのだと思う。美しいベニスの街や運河、異邦人という言葉がしっくりくるイギリス人の二人と風景とのコントラスト、長閑に見える街での連続猟奇殺人事件。路地を一歩入るとすぐに闇があちこちに存在するこの町では人の目に触れないところで、何か得体の知れないものが生きていてもおかしくない感じがする。そしてそんな映像を美しくもドラマティックなピノ・ドナジオの曲が引き立てている。
さらに忘れられないのがこの二人の熟年夫婦の熟した関係。わたしの憧れる理想の夫婦像。とても有名なシーンでもあるが、二人がベッドで愛し合う姿は本当にお互いを知り尽くした夫婦の姿だ。このベッドシーンはと−ても長く見応えがある。このシーンは実はまったくの初対面だったドナルド・サザーランドとジュリー・クリスティにとって、出会い頭の最初の撮影シーンだったという。当初、このシーンはプロットにはなかったらしいが、脚本上で夫婦がいつも何かしら言い争いをしているような印象を持った監督が急遽このシーンを追加することを決め、ほとんど即興で撮影されたらしい。

この作品は女流スリラー作家であるダフネ・デュモーリア(1907〜1989)の短編を映画化したものです。デュモーリアの小説の映画化としてヒッチコックの「レベッカ」や「鳥」などが有名。
本作はかなり小説に忠実に作られているが、娘の死因が小説では骨髄炎だったり、冷媒の姉妹は小説では一卵性双生児という設定だが、映画では年配の一卵性の双子の女優が見つからなかったらしく、単なる姉妹になっている。
わたしはまだベニスを旅行したことがないのだがいつか水に沈むと言われているベニスを必ず訪れてみたいと思っている。ヴェネツィアについてのウィキペディアにはヴェネツアを舞台とした映画の中にこれが含まれていない。なんたることだ!日本のウィキペディアってデュモーリアすら載ってないのだから・・・まったくがっかりさせられる。

秋ですね。秋の夜長に大人同士で見るには最適な作品ではないでしょうか。あくまで大人に見て欲しい映画かな・・・。
本ブログではニコラス・ローグのもう一本の大人なサスペンス「ジェラシー」も紹介しています。読んでね。
今、ふと思ったが、若い人は知っているんだろうか・・・ドナルド・サザーランドがジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)のお父さんだってこと。
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この作品のラストは、衝撃的です。**ネタばらし**
*******************************************
妻を探しに出たジョンは妻ローラと行き違いになり、ベネチアの街の思い当たる場所を探します。そこであの赤いコートの少女の姿を見るのです。その少女を追って、暗い石造りの建物の屋根裏のようなところにようやく追いつめ、「大丈夫だよ。」となだめながら近づいてゆこうとすると、その赤いコートを着た少女が突然振り返り、ナイフを構えて襲ってきます。それは少女ではなく、狂った小さな老婆だったのです。妻ローラは、姉妹からジョンの危機を知らさされ追いかけますが、なす術もなく・・・。ジョンは殺されてしまう前に、ベネチアに居ないはずのローラが(息子の病気で急遽ロンドンに一日だけ帰った)何故かあの姉妹とともに棺を乗せた葬儀用ボートに乗っている姿を見るのです。それは自分の葬儀の様子だったわけで、実はジョンこそが霊感があり、娘の死も察知した理由はそこにあったのですが、どれもあぁ遅かりし・・・という終わり方です。
その後「小さいおばあちゃん」という言葉の響きにぞっとするようになってしまったのはこの作品のせいかも・・・・。
このラスト、笑っちゃう人も居るかもしれないですね・・・。でも見たときは、思わず息を呑み、「うっそ!!」と声出してしまいました。
70年代ホラー「赤い影」と同じ流れを汲んだ作品ミア・ファローの「ジュリア 〜幽霊と遊ぶ女〜」を読んでみる。
おしまい。
よろしくお願いします。↓ランキング参加中。その後「小さいおばあちゃん」という言葉の響きにぞっとするようになってしまったのはこの作品のせいかも・・・・。
このラスト、笑っちゃう人も居るかもしれないですね・・・。でも見たときは、思わず息を呑み、「うっそ!!」と声出してしまいました。
70年代ホラー「赤い影」と同じ流れを汲んだ作品ミア・ファローの「ジュリア 〜幽霊と遊ぶ女〜」を読んでみる。
おしまい。
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この記事へのコメント
1. Posted by 小太郎 December 16, 2007 04:38
渋い、渋すぎるこの映画を知っている人はそう世の中には存在しないと思うのですが。しかし遙か昔に見たものですからまるでストーリーが思い出せなくて、ただあの赤だけが印象に残っていて。嫌それだけじゃなくってドナルド・サザーランドも残っているのですが。この作品はビデオにもDVDにもなってませんよねぇ。また見たいなぁ。ポランスキーの赤い航路ももう一度見たい作品です。あっ話はそれてリンチのロストハイウェイは全く理解不可能でした。根っからの馬鹿なんでしょうね。でもリンチの映画は頭で理解しようとしたらとんでもないことになりますよね。
2. Posted by 管理人 December 18, 2007 07:54
小太郎さん
おやおや?この作品はビデオは絶版でDVDも危ういですがどちらにもなってます。わたしも持ってます。だーい好きな作品です!ニコラス・ローグがとても好きな監督ですね!
おやおや?この作品はビデオは絶版でDVDも危ういですがどちらにもなってます。わたしも持ってます。だーい好きな作品です!ニコラス・ローグがとても好きな監督ですね!
3. Posted by 管理人 December 18, 2007 08:26
小太郎さん
書き忘れました。
赤い航路ですか…ヒュー様が醜く太っていたのが思い出されます。何故かわたしはピーター・コヨーテが冷たい風呂につかっているところで、自分が寒くなり映画館を出てしまいました。子供だったのですね…。なのでもう一度見直したいです。ラストは見ました。ロストハイウェイは好きなバンドが音楽やってたので違う意味で大好きな一本です。難解もの実はとても好き…(*^_^*)
書き忘れました。
赤い航路ですか…ヒュー様が醜く太っていたのが思い出されます。何故かわたしはピーター・コヨーテが冷たい風呂につかっているところで、自分が寒くなり映画館を出てしまいました。子供だったのですね…。なのでもう一度見直したいです。ラストは見ました。ロストハイウェイは好きなバンドが音楽やってたので違う意味で大好きな一本です。難解もの実はとても好き…(*^_^*)
4. Posted by 小太郎 December 18, 2007 19:56
ニコラス・ローグ私も大好きなんです。
その割には持ってないジャンって。でも私の感性にぴったりした監督だったことは間違いありません。
あれ、赤い航路にヒューグラントが出てたんですか。あまり好きな俳優ではないのでシカトしてたのでしょうね。その代わりピーター・コヨーテは何故か大好きなんです。ハート・オブ・ミッドナイトの彼は良かったですよ。むっちゃ渋かった記憶があります。
女はジェニファー・ジェイソン・リーでタイプじゃないから(お父さんに瓜二つ)コヨーテの方に目がいったのかも知れませんが。
その割には持ってないジャンって。でも私の感性にぴったりした監督だったことは間違いありません。
あれ、赤い航路にヒューグラントが出てたんですか。あまり好きな俳優ではないのでシカトしてたのでしょうね。その代わりピーター・コヨーテは何故か大好きなんです。ハート・オブ・ミッドナイトの彼は良かったですよ。むっちゃ渋かった記憶があります。
女はジェニファー・ジェイソン・リーでタイプじゃないから(お父さんに瓜二つ)コヨーテの方に目がいったのかも知れませんが。



